ねぶそく裏表紙

楽しんだものを書いています

The Norwood Suite

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The Norwood Suite

かつては巨匠ピアニストの邸宅であり、音楽の跡を遺しつつも今はホテルとなった「Norwood Suite」を舞台にしたアドベンチャーゲーム。

デベロッパーCosmo Dの前作『Off-Peak』と比べると、精神的かつ直系の続編とされた今作はよりゲーム性を強く帯びたように感じます。前作におけるコラージュめいた造りの舞台とゲーム内容に惑わされた経験から一転、宿泊客たちのお使いというわかりやすい要素を組み込んだ今作は、導線が随分はっきりと目に映るようです。前作はずっと地に足がつかない感覚でした。そこが魅力でもあったわけですが。

本作に触れる大半の時間は、ある人物に扮する「仮装」のための衣装や装飾品集めに奔走することになります。

色々な事情の末にこのホテルに落ち着いた宿泊客たちは、自身のビジネスや芸術活動において何らかのつまずきに合っています。冒頭で言い渡される「ここでは誰しもが何かを探し求めている」という警句に違わず、宿泊客たちは物体/非物体に関わらず、状況を改善し得る何かを欲しており、探し物を渡してあげると感謝の言葉と共に仮装の材料が手に入る。

部屋から部屋へ、時には仕掛け扉の裏に潜む隠し通路を経由して、広いホテルをぐるぐると歩き回るうちに、『私』は徐々に別の人物へと成り変わっていきます(厳密に言うとその都度着替えていくわけではありませんが)。

どこまでも付きまとう音楽に耽り、限られた空間で同じ場所を何度も巡る行為がある種の催眠術のようです。するとどうでしょう、身形の変化もあいまって、次第にこの作品に、この「Norwood Suite」というホテルに溶け込んでいくような錯覚を覚えたのですが、これは開発者が意図した造りなのか、それとも私の何かが引き込まれただけなのか。

現時点2017年ベスト。

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Dujanah

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Steam:Dujanah

主人公であるDujanahが追い求める目的ははっきりとしています。失踪した夫と娘を探し出すこと。しかし、彼女がひとつの結末に至るまで、何とも形容し難い旅路を辿ることになります。

軍事介入を受けた架空の中東諸国を舞台にしたアドベンチャーゲームです。"Clay-punk adventure"と銘打たれた本作は、クレイアニメーションを骨子としながら、フルモーションビデオや手描きといった描写で、表情豊かな音楽が添えられて、大胆な転調と共にストーリーが展開します。本作の開発者、Jack-Spooner Kingさんの従来作品(『Beeswing』『Sluggish Morse』など)で駆使された表現技法の集大成といった趣でした。

バイク、時々石油採掘用巨大ロボットを乗りこなし、いくつもの砂漠を超える旅の行く先々で出会うのは人、蜘蛛人間、機械生命体。個々のバックストーリーを抱えた彼らが語るのは、Dujanahとの会話が半分、何かひとつ上の層から言葉を投げかけられているような、婉曲的なメッセージが半分といった具合です。

これはDujanahの家族探しの旅に対する肉付けというよりも、開発者の体験や死生観が、ほとんどありのままの姿でゲーム内に宿っている印象を受けました。なので、まとまりと言いますか、綺麗な肌触りではないんですね。『Dujanah』というひとつの作品に触れているはずなのに、まったく別のものの感触が何度も伝わってきます。

ただ、そのような独立したものが散りばめられているものの、不思議と乱雑さは感じません。おそらくJack Spooner-Kingさんというひとりの人間の、非常にパーソナルな思想から湧き出たものとして受け止められたからでしょうか。そういった意味でもこの作品は非常に人間臭いです。

とまあ、私の想像は置いたとしても何より重要なのは、この作品は途方もなく遊び心に溢れているということです。Dujanahが歩む物語は救いのかけらもなく、これは彼女が出会う人々にとっても、戦争という理不尽に晒された世界に住むが故に抱える共通の病。作品に通底するのはもの悲しさです。しかし、種々の表現と語りによって、遊んでいて湧き上がるのは純粋に楽しいという感情でした。

奇妙なものを覗いて、それに激しく胸を打たれたいという衝動に駆られている方、おススメです!